サンタフェ講演全文訳


2016年4月、米国サンタフェ 開催の宝飾関連 シンポジウムに於ける講演


「マスプロダクション(量産)への糸口 :貴金属粘土のユニークな様相」


講演者:ヘルガ・ ファン・ ライプチッヒ
宝飾・主宰者:ベーセル市リムブルフ州(オランダ)
 

Helga van Leipsig


まえがき

貴金属粘土が世に出て20年が経ちます。陶芸作家、ポリマークレイ作家、ランプ作家、キルト作家など様々な人々が、この融通無碍(ゆうずうむげ)の物質で形を創り、電気炉で焼いてメタルにしてきました。この貴金属粘土を取り組む集団ができて、いろいろ調べ、探索し、いくつかの分野からの技法を試してきました。しかし、そういったことすべて、貴金属粘土にとってはまだ初期段階に過ぎず、多くの未開の分野があります。
今回の講演では、貴金属粘土の製作手順について説明し、小さなアトリエでどのように使われているのかを説明します。そして独立した作家が、ユニークな貴金属粘土の特性を利用することでその作品に自分の特徴を付加することができるのですが、それを説明したいと思います。ここでの説明は、基本的には小さなアトリエに焦点を当てていますが、より規模の大きなビジネスへのスケールアップも念頭に置いています。
わたしのバックグラウンドは伝統的な彫金作家です。従って貴金属粘土を触り始めた時、伝統彫金技術ではできなくて、何が貴金属粘土でできるのか? という問いにぶつかりました。私自身ひとりの作家として私の作品に何か伝えるモノを持たせたい、ユニークな作品を作りたいと常々考えています。貴金属粘土を私の作品に取り入れることで、どこで貴金属粘土を使うか、どこでシート粘土を使うかの選択ができます。より多くの技法の選択肢を持つことで私の作品に多様性と特徴を持たせることができるのです。


最新の貴金属粘土の範囲について

貴金属粘土は2008年まで純銀粘土と金の22Kと純金だけで、これらの材料については宝飾作家からは強度について疑問が投げかけられていました。そしてそれは2010年のサンタフェでの発表でマックライト氏が言及した問題点のひとつでした。
2008年にアメリカの化学者で起業家でもあったビル・ストルーベ氏がブロンズ粘土、さらに数年後に銅粘土を発売しました(いずれも「Metal Adventure」ラベル)。どちらも2段階の焼成が必要です。乾燥後、まず第1回目の焼成でバインダーを飛ばし、それからカーボン粒の中でより高い温度で還元焼成して焼結させます。この金属粘土の出現で、還元焼成の方法が見いだされ、宝飾の世界でより受け入れられているスターリングシルバーの粘土の開発が可能になったのです。2012年にMMTCが販売を開始しました。これはブロンズ粘土と同様、焼結には還元焼成が必要で、同年のサンタフェシンポジウムで大谷氏によって「高強度、化学安定性を有した銀-銅&金・銀・銅合金」で発表されました。
2012年には三菱の特許が切れ、貴金属・ベースメタル分野で新たなメーカーが参入してきました。この講演では貴金属粘土に絞ってまとめています。(表-1)

表-1 市場に売り出されている貴金属粘土一覧

22Kゴールド999シルバー925シルバー960シルバーメーカー名
ペースト(オーラ22)粘土
シート
シリンジ(注射)
ペースト
粘土三菱
ペースト粘土
シート
シリンジ(注射)
ペースト
油性ペースト
相田化学
粘土粘土Metalclays, 
USA
粘土粘土Metalclays, USA

貴金属粘土製の宝飾品の品質

乾燥体を焼結体にするために電気炉もしくはバーナーで焼成します。最もよい品質を得るためには、最も高い密度を実現することが重要です。このプロセスは材料メーカーのガイドラインに従って完全焼結させることになります。もちろん、作家は顧客に対し、しっかり制作された宝飾品であることを保証できることが大切となります。
表-2はPMC3の焼結で700℃、900℃の結果を示しています。より高い温度での焼成がより高い強度になることがわかります。この理由から私はいつも最も高い温度で焼成するようにしています。従ってバーナーより温度調整ができる電気炉の方が想定通りの結果が得られるのです。この10年、私は銀粘土の多くのペンダント、指輪、そしてイヤリングといった作品を顧客に提供してきましたが、壊れたという理由で返されてきたことはありません。従って私はしっかり焼結した銀粘土作品は他の技術、とりわけ彫金技術でできた作品と比べて強度という点で問題を感じません。写真-1のPMC3の指輪を見てください。(2006年に制作し以来指に着けています。——全く変形しません)

表-2 焼成後のPMCの機械的強度(データ提供者は三菱・大谷氏)

PMC3 999PMC3 999PMCスターリング 925スターリングシルバー鋳造 925
焼成条件700℃/10分900℃/10分バインダー焼成:450℃/5分
還元焼成:820℃/30分
鋳造
収縮率10~1313~1515~20
密度(g/㎤)99.49.310.4
展延率15352835
引っ張り強度(N/㎟)70140190310
曲げ強度(N/㎟)6030160240
表面硬度(HV)30305060
写真-1


2006年にPMC3で制作し以来着けている指輪。900℃で2時間で焼成している。全く歪んでいない。
 


作業プロセス-3つの手順(表-3)

貴金属粘土には3段階の作業ステージがあります。粘土状態、乾燥段階そして焼成段階です。それぞれの段階で材料としての特徴があり、道具も違います。宝飾作家の私はそれぞれの段階で異なった取り組みをしています。
粘土状態が、最も自由です。手や道具を使って自由に造形できます。テクスチャーをつけたり、パテのようにモールドに入れて形を創ることができます。注意しないと粘土は10分で乾燥し始めます。だから造形作業は集中して効果的にする必要があります。経験を積む中で、造形プロセスはよりコントロールできるようになります。貴金属粘土で様々な、直感的な取り組みができ、試行という観点で無限の可能性が広がります。扱う面白さや取組みに加えて、実際のところ使う道具は、ローテクで、プラスチックスプーンやつまようじ、ゴムの鋳型などです。
乾燥工程では、組み立てたり、足したり、また削ったりします。ここでは私のデザイン選択に従って作品のカタチを変えますが、加工時間はたっぷりあります。乾燥体で達成できる表面仕上げは焼成後の結果に現れます。従って焼成前の乾燥体の仕上げにより多くの時間をかけます。そうすることによって焼成後の研磨が容易になるのです。彫刻も木彫で使われる彫刻刀でできます。
焼成は電気炉またはバーナーでします。作品は鋳造作品と同じような仕上がりでこの後の作業は通常の彫金の道具でできます。穴をあけることも、彫刻することも、溶接も七宝処理もできます。
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表-3 貴金属粘土の製作3段階の技法

粘土段階 乾燥段階 焼成段階
立体造形 彫刻 アルゲンティウム(*)との接合
埋め込み ウオーターエッチング 全ての彫金技法
彫刻 ペーストを使った盛り上げ (*)
アルゲンティウム:
英国の会社の商標名で変色しにくい性質がある。
銀品位は93.2%もしくは96%の2種類。
模様取り パーツ組立
モールド使い 埋め込み

どういう性質が貴金属粘土の特徴か? そして何が利点か?

10年間貴金属粘土に取り組んできました。貴金属粘土を取り扱う時、自問で始まります。「貴金属粘土で従来の彫金を超える何ができるかしら?」と。私のアトリエにはボックス一杯の試験作品が処分されないで詰まっています。そこには創造的なアイデアが多くあり、貴重な教訓を教えてくれるのです。材料が粘土で造形が容易であるが故に陶芸家のようにより多くのアイデアを考えるようになりました。次の6つの分野で貴金属粘土の最も重要な技法を作品例を示しながら説明しましょう。
 

1.表面処理

 
貴金属粘土の最も明確なメリットはデザインを正確にかつ詳細にコピーできることです。例えば、自然の物、木の皮、葉っぱ、岩などの模様を直接、粘土に写すことができます。他には、指紋とか織物とか、彫刻した板とかプレスモールドとかも可能で、太陽光フォトポリマープレートを使った白・黒模様も利用可能です。レーザープリントをした紙を使うこともできます。
彫金家として自宅アトリエでシートやワイヤーのような力のいる金属材料も使ってきました。貴金属粘土を使用しながら、自由のきく材料だからこそ、模様をつけることが心地よいということに気が付いたのです。何がベストなものかを見つけることが鍵になります。幾年にもわたって私はポリマークレイ、泥、練り粉そして私が気に入っている陶芸粘土などを使ってきましたが、結論は、陶芸粘土が貴金属粘土に扱いが似ているということです。だから貴金属粘土の彫刻アイデアや彫刻技術を開発するために陶芸粘土を使いました。
私の好きな作業は、粘土状態でカービングする(彫る)ことです。小さな道具で自由な模様をつけることができます。しかも失敗がないのです。それからつけた模様の粘土シートを作品に合わせて切り出します。実際に存在する模様を調整してユニークな作品を作り出すことができます。私はこのプロセスを「粘土彫刻」と呼んで単に模様を写すことと区別しています。大半の模様付けは押し付けて印影を残すやり方ですが、私の場合は、引っ掻くやり方で模様を創るやり方です。(built from scratch)(写真-2)

写真-2


キャンビア(植物の形成層)リング(ヘルガ・ライプチッヒの作品)。左が陶芸粘土を使った彫刻技術サンプル。中央は銀粘土の彫刻サンプル。右は中央のアイテムを焼成し、オーラ22のアクセントを付加したリング。
 
これらの模様は貴金属粘土をパッケージから取り出した直後に付けます。しかし、表面処理はいわゆる「レザー(皮革)の硬さ」まで乾燥したところで行います。乾燥段階は、模様やデザインを付けるのに時間制限もなくやり易く、この段階で様々な道具を使って彫刻できるのです。
貴金属粘土にはペーストタイプもあります。注射器のようなものから一定の筋を乾燥作品の上にデザインすることができ、写真-3のテリー・コバルチックの作品が典型的な例です。液状のものを筆で使う技法もあり、とりわけ、描くこと、塗ることをいつもしている芸術家には興味のあることでしょう。より上手く再現することができる技法は、ステンシルを使うことで、乾燥体にステンシルを通して液状の粘土を塗ること。これらの技法は「PMC技法」にあります。

写真-3


鶴のペンダント テリー・コバルチックの作品。鶴のレリーフがペーストで盛り上げられている。金のアクセントは本体のオーラ22で焼成後付加されている。
 
陶芸でよく使われる技法にウォーターエッチングというのがあります。撥水性の物質を銀粘土乾燥体に塗り、そして濡れたスポンジで粘土を取り除く。水の中で洗い流した貴金属粘土はリサイクルのために集め、そして化学的な処置無しで美しい、繊細な表情を造り出すことができます。(写真-4参照)

写真-4


彫刻された花(photo by George Post)とウォーターエッチングの笛、リン・コブ氏のキャッスルシリーズ(photo by Andrew Stevenson)。

 
粘土状態、乾燥状態、いずれにせよ、貴金属粘土には広い範囲の技法の可能性があり、容易に模様付けが可能であることから、特に経験の浅い作家や宝飾創りの新人たちには魅力ある材料なのです。
 

2.彫刻技法

 
金属粘土は粘土であるので手と指で成形作業ができます。押したり、伸ばしたり、滑らかにしたり、無数のカタチ造りができるのです。すべての金属粘土は水で柔らかくなります。乾燥してしまっても、丁寧に処置をすれば、つまり、水分を加えてやれば元に戻すことができます。
乾燥体での造形:粘土状で模様やテクスチャーが施された作品はそのまま放置すればよいのです。そのままの形を保って乾燥します。そして改めてそれらの作品により複雑な形、模様を彫刻により追加することができます。
 

3.焼成時の収縮

 
粘土状態では金属粘土は水分とバインダー成分が含まれています。焼成過程でこれらの成分は飛んでしまうので、焼成過程で収縮が生じます。収縮によって他の合金やストーンを作品に組み込むことができるのです。ただし、焼成温度には気を付けないといけません。私の作品の「アースコレクション」では、粘土に金属片とストーンを埋め込んで焼成時の収縮を利用して作品の中で焼き締められています。(写真-5)作品の裏に収縮模様が見られます。貴金属粘土の収縮は一様で、15%程度の収縮を念頭に入れて作品作りをします。

写真-5


メタルとストーンがPMC3に埋め込まれた指輪とペンダント(ヘルガ・ライプチッヒの作品、Earthシリーズ)。
 

4.作業スピード

 
貴金属粘土で実際の作品モデルを造ることができ、それによってコスト評価したりテストをしたりできます。短時間に初期モデルを造ったり実験的なサンプルを創ったりするのに役に立ちます。金属粘土は再使用ができるのでスクラップが出ません。金属粘土の可塑性(手造りでひとつひとつデザインが違う)とスターリング銀の鋳造品の全く同じデザインと強度との組み合せは必要かつベストではないか? というような問いは、期待した通りの作品ができるという評価の中に答えが見いだせます。
顧客のためのメタルモデル:顧客はその銀粘土作品がどのようにフィットするのか、どのような感覚なのかを容易に見て感じることができます。そのメタルモデルは原型として金やプラチナ材料で鋳造するために使うこともできるのです。
手作り作業(写真-6):模様付け、クッキーカッター、モールドや乾燥体を使っていくつものパーツを創りそれらを組み合わせて作品にします。陶芸分野であるように、中間工程まで作品を創り、その後最終作品に仕上げることが可能で、貴金属粘土の乾燥工程の中間作品に対し、作家は独自の要素を組み入れることができるのです。すなわち、短時間で作品を仕上げるとか、シリーズで作品を創るとか、注文に応じて作品を創るといったことに対し、理想的な材料といえるのです。

写真-6


PMC3のハンドメイド作品。「結合・統合」を象徴形状化したパーツ(ヘルガ・ライプチッヒの作品のドラゴンコレクション)。
 

5.貴金属粘土の道具

 
絶対に言えること、それは貴金属粘土を使う有利点は、作品創りを始めるのに、高価な鉄の金型や機械装置が要らないということです。木の葉そのものがプラスチックのローラーやスペーサーと一緒に使って十分な美しい印象(模様)を貴金属粘土に写すことができるのです。
道具が単純であるということは、重要なデザインの関心が「自然」と結びつくことにもなります。自分自身のデザインを創ろうという作家にとって、自分自身のパターンや模様を生み出し、作り出すことから始めることができます。模様を描いたり、彫刻したりする技法を生み出すことによって どの作家も自分自身の顔を持った作品を創ることができるのです。だから、道具を創るということは作家としてのあなたの作品を差別化する手段の一つになります。貴金属粘土がシンプルであるが故に、工具や機械、そして熱処理の技術は必要ないのです。
私の経験によるとしっかりした模様を創るにはいくつかの材料・ツールを使うことが必要です。すなわち、写真業界で使うフォトポリマー太陽光板、ワックス板、シリコンモールド、2Dレーザーカット紙といった道具です。私は、まずPCの白黒模様でデザインして模様紙を作り、それを使って貴金属粘土に模様をつけて作品を作ります(写真-7)。これらのパターンは幾度も作品創りに使うことができるのです。

写真-7


太古の海ペンダント(ヘルガ・ライプチッヒの作品、模様は2Dレ-ザ-カットされたペーパー使用)。
 
作品シリーズの製作のための特殊なツールを作り出すのは、彫金経験があるのでそう難しいことではありませんでした。数多く溶接された銅のクッキーカッターのような形崩れしない型を作ります。最近探求していることに3Dデザインで多様な形ができるカッターを考案しました。それを使うと短時間で繰り返し使うパーツを創ることができるのです。
貴金属粘土の取り組みはけっして複雑ではありません。逆に私は貴金属粘土をできるだけ簡単にかつ少ない量を使うことに心掛けています。もちろん、あなたは思わず新しいツールを買ってしまうかもしれません。しかし、そのようなツールは貴金属粘土と作業をするときに役に立つとは限らないのです。
 

6.顧客と関係(写真-8)
写真-8


右のペンダントはヨランダ・ニューボアと顧客の共同作品。左は顧客が銀粘土パーツの裏に書き込んでいる様子。
 
注文作品のデザインに顧客が参加することは大きな喜びで、作品創りに顧客を引き込むことができるならさらに喜びが付加されます。マーケッティングアピールにもつながる! あなたはそれによって経験とその価値を同時に提供することになるのです。
顧客はその経験の即時性故に作家が貴金属粘土で作品を制作していることを実感します。「精神(デザインの発想)が【貴金属粘土に】触れる」、ニシオ・アキラが貴金属粘土経験での(造形の)即時性を「精神(デザインの発想)が触れる」と呼びました。顧客との関係を説明するよい言葉だと思います。この「精神(デザインの発想)が触れる」を使って製作する宝飾作品に最も反映するカテゴリーのひとつが相互思い出作品です。病院に見舞いに行くことがあります。そこでいくつかの指紋をとって後で作品にしてあげることができます。患者は「生きること」に限りがあること、いつか死ぬことを知っている、そして愛する者に患者が触れた有形のモノ、できれば思い出として身に着けられるものをあげたいと思うのです。この指紋作品は他の宝飾材料ではできません。私は貴金属粘土をいつも用意しておき、注意深く、確かな方法で指紋をとることができるのです。


マスプロダクションのタイミング

貴金属粘土で新しいデザインの市場の反応を見ることができます。鋳造制作に投資する前に市場に持ち込むのです。第1段階では、あなたは貴金属粘土で作品を造り、市場に持ち込み、その反応を見ます。その作品の顧客の反応がよいとなれば、自信を持って鋳造への投資ができるようになります。モデル(原型)を創るために貴金属粘土を使う利点の一つはまさにすでに貴金属原型を保有しているということなのです。これで鋳造プロセスのワンステップが省けるのです。
鋳造技術は理詰めであるがゆえに、あなたのブランドにとって最良のビジネス手段だとは思えません。私のビジネスにとっても、同じです。私は私らしい作品で有名になりたい。アンナ・メイゾンは、貴金属粘土で創った蔓枝デザインペンダントをキャストで制作することを決めました。そして使うストーンで価格を変えて定番コレクションとして顧客に提案したのです(写真-9)。彼女はその点をオープンにしておき、顧客が好みと予算に応じてストーンを選ぶことができるようになります。カスタムメイドの余地を残しているのです。

写真-9


蔓ペンダント(アンナ・メイゾンの作品)左が純銀の原型。右が925の鋳造製のペンダント。
 
私が(作業スピード)項目4で述べたように貴金属粘土でハンドメイドすることは、上手くデザインが頭の中でレイアウトされているならスピードは速いです。小さなスタジオでは貴金属粘土で作品を造ることは効率的であります。そしてその作品を原型にして鋳造すればよいのです。こういったことは、あなたの損益分分岐点と戦略次第なのです。
もしあなたがミニシリーズ、注文制作、単一モチーフ作品、で有名になりたいのなら、鋳造は止めた方がよいでしょう。私は上手く自分の作品を売っています。それはハンドメイドであるからで、私自身が証拠です。


あなたのブランドを市場に問うために使う貴金属粘土の特徴ある性質

宝飾産業は変化しています。顧客も変化しています。このように変化する分野では貴金属粘土の柔軟性は小さなビジネスにはまさに有利です。マッキンゼイのレポート「多様な側面を呈する未来:2010年の宝飾業界」によれば、そのトレンドはブランド化の傾向が高まるということです。SNSのような社会メディアが利用できるようになり、作家ひとりでもブランドとしてビジネス化できるようになるのです。
メ-ガン・オウマン、単独で宝飾ビジネスをして成功しています。彼女が著書「利益の目的」でいうには、「今日、商売とは人間関係に基づいているし、社会的な動機に基づいている。そして売り手と買い手とがお互いに得することを実現する仕組みでもある。」と。私は同感します。小さなスタジオの私たちの小さなブランドで顧客はそれに感動してくれます。私たちは、自分の特別な技術や人格を反映したブランドを創造することができるのです。
貴金属粘土の利点は作家が変化する市場に素早く反応できるということです。戦略的にネットのSNSなどメディアを使えば、長続きするビジネスをするに十分な顧客を持つことができます。市場開拓とは、創作活動の一環であり、かつ観客と分かち合い、結び付く方法でもあるのです。
貴金属粘土の特性を生かして自分のブランドを構築する事例です。容易に模様を取り出して、エリン・エルム・ハリスは思い出ジュエリー(写真-10)を創ることでビジネスに成功している。彼女は動物の写真をスタンプに写します。それを貴金属粘土に写し、写した作品を顧客は平生の生活の中で使うのです。この事例こそ、表明処理や、道具造りそして顧客との接点造りの組合せ事例となります。

写真-10


思い出カフス(エリン・エルム・ハリスの作品)PMC960使用。留め金は925使用。
 
仕掛けとは、ユニークで特別だという評判を拡げること、特に明らかにマスプロダクション(大量生産)でないという評判を拡げることです。小さなブランドで大切なことは誠実と透明性をベースにすることです。写真-11にあるカスタムメイドリングでは、私は、成功したアースコレクションのデザインを使い、貴金属粘土の収縮を利用して顧客からの提供された金を組み込んでいます。

写真-11


Earthリング(ヘルガ・ライプチッヒの作品)PMC3の本体に顧客の14金のパーツが埋め込まれている。
 
貴金属粘土は、いかなるビジネスモデルの一部となることができます。デザインのユニークさや限定品であるという事実に加えて、オランダで作られたという添え書きで価値を加えることができるのです。
サイモン・シネクの著書「なぜで始めよう」で、彼は「人々はあなたが何をするかで買うのではなく、どうしてそうしたかという理由で買うのである。」すなわち彼が言っているのは人々は「何」で動くのではなく、「何」の背後にある目的で動くのであると言っています。その目的とは、作ったモノの背後にある意味合いとか、価値とかエッセンスです。そして、特に若い人々はモノにそのモノの目的があれば、より多くのお金を支払う傾向が強くなっています。(写真-12)

写真-12


小鳥と月のブレスレット(ビッキー・ハルマークの作品)PMC3とPMCゴールドを、それぞれ形をパーツとして創り、アルゲンティウムのシートとワイヤーに接合してブレスレットにしている。自然のモチーフが見事!
 


結論

貴金属粘土は新しい技術であり、単に打ち抜きや、ロストワックス鋳造のような他のプロセスの代替材料ではないのです。どんな新しい技術も試行の段階があってよいと思います。
ポーセレン粘土のように直感的な扱いをする材料は伝統的な技術を身に付けた彫金師にとって新手の材料です。私は伝統的な彫金師にもっと貴金属粘土の持っているメリットを理解してほしいと思います。彼らのツールボックスに加えることで顧客への作品のプレゼンに役に立つはずです。
作家という観点で言うと、この道具と貴金属粘土は無限の可能性を持っています。私は、ひとつの技術を他の技術より優先させて取り扱うという(依怙贔屓の)意図は全くありません。しかしながら、ひとつ指摘しておきたいことがあります。ここで述べた貴金属粘土の持つ利点を活用したマーケティング(ユーザー開拓)活動との組み合わせで、作品造りに貴金属粘土の特徴を使うことは、作家のスタジオでは、差別化されたユーザー開拓手段であるといえます。
小さなスタジオでさえ、効率のよいモノつくりのためのデザインワークができれば利益が上がります。貴金属粘土を使えば、力強い武器を手にすることになるはずです。ひとつの作品が人気が出ると、ビジネス戦略に合致しているなら鋳造でそれを量産ができるのです。
2003年のサンタフェシンポジウムでクリストファー W.コルチ氏は「技術は宝飾デザインに対し無宗教であるか?」のテーマで講演しましたが、その講演で貴金属粘土を金属粉体技術に関連した新しい制作技術であると述べています。貴金属粘土が新しい創造的な方法で宝飾分野にもたらすデザインチャンスがいかなるものか そしてそれこそ貴金属粘土の強みなのである、ということを皆さんに示し得たのではないかと期待しています。


最後に

貴金属粘土社会の様々な知識を惜しみなく共有してもらえたことで今回の講演をすることができました。特に、ヨワンダ・ニューボエル氏、ノルジエ・メイジェリンク氏、ヴィッキー・ハィマーク氏、そしてティム・マックライト氏らにはアドバイス、励ましそして情報並びにフィードバックをいただき、お礼を申し上げます。テリー・コバルチック氏、リン・コブ氏、アンナ・メイゾン氏、エリン・エルム・ハリス氏、そして大谷真二氏にも映像や情報をいただいたことにお礼を申し上げます。最後に私をサンタフェシンポジウムでの発表の機会を与えてくれたエディ・ベルとシンポジウムチームに深く感謝を申し上げたいと思います。
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―参考文献―

  1. Tim McCreight, “PMC: The Clay That Just Might Change Jewelry,” The Santa Fe Symposium on Jewelry Manufacturing Technology 2010, ed. Eddie Bell (Albuquerque: Met-Chem Research, 2010): 363.
  2. Shinji Otani et al., “Precious Metal Clay for Ag-Cu and Au-Ag-Cu Alloys with High Strength and Increased Chemical Stability,” The Santa Fe Symposium on Jewelry Manufacturing Technology 2012, ed. Eddie Bell (Albuquerque: MetChem Research, 2012).
  3. Celie Fago, “.960: A new alloy of sterling PMC,” blog (2014); http:// celiefagojewelry.blogspot.nl/2014/02/960-new-alloy-of-sterling-pmc.html.
  4. PMC Technic: A Collection of Techniques for Precious Metal Clay, ed. Tim McCreight (Brynmorgen Press, 2007).
  5. H. van Leipsig, “Texture components with laser-cut precision,” Art Jewelry Magazine (Waukesha, WI: Kalmbach Publishing Co., January 2013).
  6. Jan Brassem, “Changing Times: A Multiple-Choice Quiz,” blog (December 2015); http://www.nationaljeweler.com/independents/3804-changingtimes-a-multiplechoice-quiz.
  7. Linda Dauriz et al., “A Multifaceted Future: The Jewelry Industry in 2020,” (McKinsey & Company, 2013).
  8. Megan Auman, The Purpose of Profit, 1st ed. (Designing an MBA, 2015).
  9. Simon Sinek, Start with Why (Penguin Books Ltd., October 2011).
  10. Christopher W. Corti, “Technology Is Irrelevant to Jewelry Design—Or Is It?” The Santa Fe Symposium on Jewelry Manufacturing Technology 2003, ed. Eddie Bell (Albuquerque: Met-Chem Research, 2003).